互助会解約トラブルの原因と対策
以前、互助会について記事を書いたときに、互助会にまつわるトラブルについて書きましたが、それをもう少し掘り下げてみようかと思います。
互助会の成り立ち
もともと互助会はその名の通り、相互扶助のために作られた組織です。
葬祭ジャーナリスト・碑文谷創さんのブログ記事「葬祭業とは何か?」によりますと、戦後間もない昭和48年に、横須賀の西村葬儀社が横須賀市冠婚葬祭互助会として発足したのがはじまりだそうです。
戦後の混乱期に、まとまったお金がない市民がそれぞれ掛け金を出し合って葬儀費用の積み立てをした、まさに相互扶助のための掛け金です。
時代が経ると市民の生活レベルも向上し、それに伴って互助会は全国各地に発足して、活発な勧誘活動が消費者問題を引き起こし、社会的規制の対象になりました。
割賦販売法を適用して1973年に当時の通商産業省の許認可事業になるのですが、碑文谷さんの言葉を借りるなら「この意味は一つは規制であり、もう一つは公認であった。マイナスだけでなくプラスも互助会は手に入れたのである」。
葬儀は家から会館へ、葬列から祭壇へという突入します。大規模会館の全国的な建設ラッシュと国の庇護下に入った互助会の拡大は比例しています。
互助会制度の仕組み
全日本冠婚葬祭互助協会による説明は以下のようなものです。
冠婚葬祭互助会の基本は、毎月1000円~5000円程度の掛金を60回~100回程度払い込むと「結婚式」「お葬式」あるいは「七五三、成人式などの通過儀礼」に際し、極めて経済的に儀式が執り行える会員制の会社です。
加入者よりお預かりしている掛金は2兆3000億円を超えています。
全国の冠婚葬祭互助会では、各地に専用の結婚式場・ホテルなど冠婚施設、専用の斎場など葬祭施設を展開し、加入者の利便を図っているほか、貸衣裳店を経営しています。これらの施設はもちろん加入者へのサービス向上のために建設したものですが、加入者以外の一般の方でもご利用になれます。
冠婚葬祭互助会が加入者からお預かりしたお金は、加入者に対する儀式サービス向上のために設備、備品の購入に充てられていますが、掛けた金額の2分の1は割賦販売法の規定によって法務局または経済産業大臣が指定する金融機関などにより守られていますので、万一、互助会が倒産などの事態に陥った場合でも、安心です。
引用元:全日本冠婚葬祭互助協会HP http://www.zengokyo.or.jp/index.html
毎月の掛け金を積み立てて冠婚葬祭の費用に充当するというのが互助会制度です。
これだけだとどこにどんな問題があるのか分かりません。
苦情とその原因
消費生活センターなどに寄せられる主な苦情は以下の4つです。
- 勧誘が強引だ
- 入会時には掛け金だけで葬儀ができると言われたが、実際には法外な費用が掛かった
- 解約を求めると色々な理由をつけては断られる
- 解約時の違約金が法外だ
毎月1000円から5000円ほどの無理のない掛け金でいざという時に葬儀ができるのだし、万一会社が倒産してしまったしても近隣の互助会に支援してもらったり、掛け金の2分の1は保障されるのだから、何が問題なのでしょうか?
問題だらけです。
そして、その問題の原因を列挙します。
①掛け金だけで葬儀はまかなえない
「月々○○円の掛け金だけでいざという時に葬儀ができる」
勧誘員はこう謳うのですが、できません!
いや、厳密には勧誘員は断言こそしないでしょうが、錯覚するような言い回しのオーバートークで入会に迫ります。
20万円コースや40万円コースなど、いくつかのコースプランを設けているのでしょうが、それ以外に別途費用が必要となることが多く(会館使用料、霊柩車、マイクロバス、返礼品、料理、案内スタッフなど)、それらだけで満期額の倍ほど計上されることもあるでしょう。その上、基本コースのグレードアップを提案されることもあります。
入会したのは元気な時ですし、実際に葬儀を施工するのは何年も何十年も先です。勧誘員と葬儀の担当者も別の人間です。あるいは入会した親の葬儀を息子が執り行う、というようなケースも大いにあるでしょう。入会時の勧誘員のオーバートークがそのまま施行時に適用されるとは限りません。くれぐれも気をつけましょう。
②掛け金の2分の1は保証される
全日本冠婚葬祭互助協会によると、協会に加盟している互助会企業の基金で「役務保証機構」という消費者保護団体を作っているために、万が一会社が倒産したとしても、掛け金の2分の1は保証されるため安心だということです。
ということは、あと半分は、戻って来ないということですよね。
勧誘員がなぜ強引に勧誘をするのかと言うと、互助会としては入会する会員数こそがすべてだからです。掛け金の2分の1は返金しなくてもよいということは、それらは互助会の収益です。その資金を先行投資として運用して会館を建てたり多角的な事業展開を行います。
③解約渋りと高額な違約金
解約を申し出てもあれやこれやと断られたりまともに受けあってくれない。解約に応じてくれたとしても違約金が法外だなど、このようなトラブルもあとを絶ちません。
全国消費者生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)に登録された「冠婚葬祭互助会」に関わる苦情・相談件数は平成24年で3477件、そのうち「解約」に関する苦情・相談件数は1958件だそうです(経済産業省:冠婚葬祭互助会の解約手数料のあり方等に係る研究会報告書)。
先に述べたように、会員の掛け金で会社を経営している互助会にとって解約者の発生は死活問題につながりかねません。定期的な掛け金からの収益と、施工時の売上収益を両方失うことになるからです(まあ、逆を言うとそれまではその両方から収益を得ていたわけですが…)
しかし、平成21年に特定商取引に関する法律が改正されたことを受け、互助会の解約手数料が高額だと、京都の消費者団体が互助会大手のセレマを提訴しました。会員が積み立てを中途解約する際に多額の手数料を徴収する条項が有効かが争われた訴訟で、1審京都地裁、2審大阪高裁のそれぞれの判決を控訴、上告しましたが、平成27年1月20日、最高裁は上告を受理せず、セレマの敗訴が確定しました。セレマは30万円の積立金の解約手数料として15%の45000円徴収したのですが、判決では8912円が妥当だと判断されました。
また、こちらも業界大手の日本セレモニーも、高額な解約手数料を巡って福岡市の消費者団体に提訴され平成26年11月19日に福岡地裁に、これまでの解約手数料を定めた契約条項が無効であると判決を言い渡されています。
相互扶助の精神で始まった互助会はどこに行ってしまったのでしょうか?
対策
もういちどおさらいします。これが互助会トラブルの原因です。
互助会は会員による掛け金の2分の1によって先行投資をするために、会員獲得に躍起です。積立金だけで葬儀ができてお得だと思いこませて契約を促します。
そして、解約を申し出ると渋り、応じてくれたとしても法外な違約金が発生します。
対策は簡単です。
入会時にきちんと商品説明を受けること。そして契約する前にきちんと勉強しておくことに尽きます。
葬儀の世界では、最近でこそ終活がブームとなり、消費者が積極的に葬儀について考えるような時代になりましたが、一昔前までは葬儀の事を考えること自体が縁起でないと敬遠されてきました。売り手と買い手に極端な情報格差があったわけです。
簡単なことです。
- ①20万円や30万円という満期の額では葬儀はできません。
- ②約できない契約なんてありません。
- ③法外な違約金には、セレマ裁判の判決が前例となるので堂々と対応しましょう。
賢い消費者でいれば、無駄なことで哀しい思いをしなくてすみます。大切なお葬式を納得いくすばらしいものにするために、正しい知識を手に入れ、勧誘員や担当者の言いなりにならない勇気を持ちましょう。