大資本やインターネット系に葬儀社への新規参入
2014年の日本の死亡者数は126万9千人。2040年のピーク時には167万人を超える死亡者数が試算されています。
2兆円規模の市場。異業種からの新規参入はあとを絶ちません。電鉄系、ホテル、小売業、ネットベンチャーなど、まさに群雄割拠の様相を呈しています。
いつでもだれでも開業できる
まず、葬祭業には参入障壁がありません。
マーケットにおけるライバルの縄張り的なものや、ある程度大きな設備を構えないと集客が見込めないなどの地域的な特性など、マーケティングの側面の障壁はあるのかもしれませんが、基本的には、いつでもだれでも葬祭業を開業することができます。
行政の許認可は不要です。葬祭ディレクターなどの資格はあくまで業界団体が設けた資格にすぎず、なくたって葬儀はできますし葬祭業は経営できます。
強いてあげるなら、遺体を搬送する寝台車や霊柩車を運行するための貨物自動車運送事業の許可、つまりは緑ナンバーの登録が必要ですが、これがなくたって搬送業者に外注すれば事足ります。
葬儀の付帯業者は実にさまざまです。会館、棺、祭壇などの葬具、生花、料理、返礼品、寝台車、スタッフ、これらをどこまで自社で用意するか、それとも外注するかだけの問題で、極端なことを言えば電話が1つあれば葬儀は施行できます。
葬儀社の社員がノウハウを覚えて独立開業というのはよくある話で、これが身近な新規参入ではないでしょうか。
乱立する異業種参入
参入障壁がない上に、2兆円市場、その上死亡者数は25年は右肩上がりとくれば、大企業が資本を武器に新規参入しないわけがありません。
JA(かつての農協)は昭和40年代には葬祭事業が始動していたと言われています。ただし、JAの葬儀はあくまで組合員向けのものでした。
鉄道グループとしては1997年に阪急が葬祭事業を立ち上げます、その後南海が愛知県の葬儀社ティアと業務提携、京王は八王子に自社会館を設立しました。
葬儀の祭壇が白木から花祭壇へ移行していく中、生花店が葬儀事業を展開している例もあります。「花葬儀」を展開するリベントや日比谷花壇がその先駆けです。
そもそも生花店は葬儀社の下請けでした。そのような下請けの業者が葬儀業を立ち上げる例はほかにもあります。
仏壇仏具メーカーの丸喜は東京に「家族葬ホテル・スペースアデュー」を設立しました。またわずかではありますが、石材店が葬儀事業を始めるところもあります。
イオンは「葬儀社」と呼べるのか
葬儀ネットワークの全国展開を手掛けたイオンの登場は業界内でも衝撃が走りました。があります。イオンは葬儀の施工価格だけでなく、僧侶への謝礼金額も統一化を図り、宗教界からの反発も起こったほどです。
自社施工ではなく窓口で受注だけして、全国で提携した地元の葬儀社に施行してもらい手数料を受け取るというシステム。いくらイオンが独自の基準に依る葬儀社の選定や厳しい審査を掲げていても、彼らは厳密には「葬儀社」ではなく「紹介業」と呼ぶべきでしょう。
イオンは僧侶の派遣から仏壇や墓石や納骨堂にまで事業を展開させ、全国各地のイオン店舗で終活セミナーを開催することで自社の認知度を増しています。
低価格を謳うネットベンチャー系
「家族葬のファミーユ」をはじめとして「小さなお葬式」「みんなのお葬式」「シンプル火葬」など、ネット集客に特化したベンチャー企業も、内情はイオンと同じです。ただし、イオンが自社店舗を用いて対面の顧客にサービスの提案ができるのと異なり、これらの会社はネット上での展開のみのため、傾向として低価格や利便性を強調しています。
いずれにせよ、施行するのは地元のどこかの葬儀社です。どこが来るかは分からない。そういったリスクを伴います。
真に家族の心に届く葬儀とは
筆者である私も複数の葬儀社のサービスを受けているわけではないので、正確なことを言えるわけではありませんが、新規参入組で消費者の評価を得ている葬儀社(紹介業ではありません!)として、東京のアーバンヒューネスと、名古屋のティアがあります。数々のメディアでも取り上げられていますし、自社施行を信条としながらも合理性だけに走らない姿勢は評価に値します。
このほかにも全国的にはまだまだ評価されるべき葬儀社が存在しているかもしれません。
業者が開催する終活セミナーをうのみにするのではなく、みなさん自身がいろいろな葬儀社を訊ねてみて、よい葬儀社かどうかを見極める努力が大切です。